上原きみこという漫画家さんの作品で『ハッピーまりちゃん』という小学生向けの少女漫画がある――という話題は以前からここで何度か出してるけど、この話の中に『真理絵』という名の少女が出て来る。この『真理絵』は、コミックスのタイトルであり主人公でもある『まりちゃん』とは別人だ。(名前が似ている事は、実はこの漫画のストーリィに於いては非常に重大な伏線なのである。)この漫画は大きくジャンル分けするとバレエ漫画で……と一口に言ってはみるものの、内容は小学生向けらしくあちこちで破綻しまくり且つ複雑で、簡単にあらすじを説明するのが非常に難しい。ただ、今日のトピックスでもあるこの『真理絵』は、小学生ながら母親を階段から突き落として怪我させようとしたり、それに乗じて妹を家から追い出した上にその彼氏を雪山で遭難させたりと、「『小学2年生』とかそういうレベルの雑誌でやって良いのか、それ?」みたいな事を次々とやってのける鬼畜な少女であった。
そう、真理絵は――母親がバレエを踊れなくなるよう、怪我を負わせようと試みた。そして「何故そんな事をしたの」と問うまりちゃんに対して、「言ったでしょ、私が踊りたいのはママのエレナだって」と、答えた。
『エレナ』というのは、この作品中に出て来るバレエの物語で、主人公の『エレナ』には子役と大人役とがある。真理絵とまりちゃんがダブルキャストで演じるのが子役のエレナ。そして真理絵の母親が演じるのが大人役のエレナ。真理絵は戯れのような子役のエレナではなく、大人のエレナ――本当の主人公が演じたかった。だから、母親が邪魔だった。
流石に小学生の頃は酷いとしか思わなかったけど、現在の私は、真理絵の気持ちが何となく解る。ただ、私は自分が凡人である事を少しは理解してるから、エレナを踊りたいばっかりに母親に怪我をさせるのではなく、違う作品で主人公を踊る方法を考えるだろう。それが『エレナ』に続く道だと信じて、『エレナ』程花形でなくても良いから、せめて何かの主人公を。でも、それも叶わないようだと悟り、それでもどうしても自分が主人公を演じたいと思ったなら、その時は私が他のバレエ団に移るしかないって――そう、思うだろうな。でもこれは、私が自分自身の能力の低さを認めているが故だ。(人間、歳喰うとそれなりに謙虚になるものよ。)
元が天才肌で認められて来た真理絵にしてみれば、自分を過大評価して「ママのエレナ」を踊れると思うのは当然な訳で。
真理絵は母親に成り代わりたかった。無論、自分が母親と同じように踊れるとは思ってなかっただろうけれど(その幼さ故に思っていたかも知れないが)、とにかく真理絵は、エレナが踊りたかった。そこに、自分自身の存在意義を見い出していたのかも知れない。そしてまりちゃんの存在は、母親がいなくなった時に邪魔になるとも考えた。真理絵に対しては行われる事がなく、まりちゃんに対してのみ行われる母親の執拗なまでのレッスンに対する羨望と、それに加えて「パ・ドウ・シャでトゥの音を立てた時に叱ってもらえるお前には、叱って貰えない私の気持ちなんか、解る訳がない」って、そんな嫉妬。最初から出来ないと――お前なんかには踊れはしないと、できなくても注意さえして貰えない程に相手にされない人間の事なんて、叱られる事の被害者意識にばかり苛まれてるまりちゃんは考えた事もないのだろう。だから――
『エレナ』を演らせて貰えない人間の気持ちなんて、まりちゃんなんかには絶対に解らない!
しかしまぁここまで語っておいて何だけど、「『小学2年生』誌上で母に怪我を負わせ、義理の妹であるまりちゃんを家から追い出した真理絵」は、何と『小学4年生』の夏には、まりちゃんにとって(ほぼ唯一の)味方として幅を利かせる存在になる。勿論その頃には、新たな「本物の『真理絵』」の出現が、ひたすらに主人公の「まりちゃん」を苦しめ続けているのだけど。この漫画のストーリィは、あくまで『真理絵』がまりちゃんを苦しめ続ける物語なのだ。
で。今日は何が言いたいかと言うと、自分の能力の低さが嫌で嫌で仕方なくて、それでも元が真理絵指向だった私は、現在の会社にいるのが厭で厭で仕方なくなっているのと、あと、今日はシルヴィ・ギエムの『ボレロ』を観に行って来るよ、と。
2005年11月19日
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