2006年02月28日

現在、そこにいる王者に。

 トリノ五輪、フィギュアスケートのエキシビションを、通しで既に3度ほど観た。最初は寝ぼけ眼のLive、次は同僚ちゃんと一緒に騒ぎながら。そして今、独りで酌を傾けながら。

 本当は、一通りじっくりと観終わったら、今度こそエキシビションの感想を書こうと思っていた。
 けれど、改めてマートンのヴァイオリンでトスカを滑るプルシェンコを観てしまったら、ここに書く事が殆どなくなってしまった。
 ――愉しそう。思い切り、滑れて。採点基準もメダルの色も意識することなく……勿論、今彼がいる場所自体が、その戦いの覇者にのみ与えられたステージでもあるのだけど。どちらにしても、もうこの人の往く手を邪魔する相手はどこにもいない。観衆の視線を独り占めにして、自由に滑る事ができる。パラヴェーラに響く観衆の声も、露西亜国歌も、マートンの奏でるヴァイオリンの旋律さえも、全て貴方の物だ。

 本当は、書きたいことが沢山あった。今回のオリンピックでは、その直前から終わりまで、今まで「こういう事は書かないようにしよう」って思っていた事を、沢山書いてしまった。勢いに乗って、今日も色々書いてしまおうかと思ったけれど……。プルシェンコが金を獲れた事。そして、彼がこのトリノ五輪におけるフィギュアスケートという競技の主役であれた事。
 それで、もういいや。だって、私の今度のオリンピックの望みは、どう考えてもそれだった。4年前にどうしても手が届かなかったものを、更にシャープになったその滑りで、今度こそ手に入れて欲しかった。天才のその名を、今度こそ五輪に刻んで欲しかった。既にその戦功はヤグディンを超えているのだから、五輪の金さえ手に入れられれば、彼はもう、全ての呪縛から解き放たれて自由になれるのだからと、そう思っていたし。

 彼がヤグディンの呪縛から解き放たれたかどうかは、私には判らない。もしかしたら、もっともっと時間がかかることなのかもしれないし。こういうのは、本人達同士にしか解らない事だし、私が解る必要もない事だ。ただ、エキシビションを観る限り、彼は少なくともあの場では、ヤグディンを始めとした他の選手に固執しているようには視えなかった。プルシェンコは、プルシェンコであるように視えた。

 今、そこに出現した五輪の覇者を、なんと形容したものか。私みたいな貧弱な語彙で、この人をどう語れば良いのか。少なくとも今は、云える事など殆どない。ただもう少し、プルシェンコの滑りに浸っていたい。もう暫くは、覇者のステップを眺めながら。

 次にプルシェンコを語れる時が来るのを、楽しみに待とうと思う。
posted by HOSHINA Shiho at 02:36| Comment(2) | TrackBack(0) | フィギュアスケート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
志穂さん初めまして。
私も大のジェーニャ(プルシェンコ)のファンです。今回のオリンピック、様々な意見を聞きまして思うところ沢山ありましたが、結論から言いますと金を獲ることが出来てよかったです。だってこの日の為に4年間練習しトップで居続けたんですから!彼は金以外はいらなかっただろうし、安全策を獲ったのは妥当だと思います。

ジェーニャのことを悪く言うということは、それだけ注目されてることですし彼に期待しているということ。それにリョーシャ(ヤグディン)と較べるのも何かと思います。二人ともタイプが違いますし、天才的な技術とダンサーの素質を持つ者が好きか、天才的な表現力と重厚な演技をする者が好きかという好みの問題だと思います。
ライバルがいれば自分も確実に成長出来ますが、1人で頑張っていくことは並大抵のことではありません。だからと言って悲観的に考えることはないのではと思います。やるべきことはいくらでもあるのですから。

今回のEXのような音を表現する才能はジェーニャにしか出来ないし、前回はリョーシャの大会でしたけど、今回は完全に最後のEXでジェーニャ為のフィギュアの大会になってしまいました。このEXを観て改めて彼の才能に惚れ直しました。そして志穂さんの仰るとおり愉しそうだな!と思いました。

きっと4年前の演技など見ていただくとわかると思いますが、ジャンプも安定感が増しましたし、ステップも凄くなっているのがわかります。強いのは当たり前!と言われていますが、本人がこれだけ努力していること、ファンのみならず皆様にも知ってもらいたいものです。

ジェーニャは、これまで国の為に滑ってきたからこれからは自分の為に滑りたい、と話されたそうです。とても重い十字架を背負っていたのですね。お疲れ様!その中での金は、内容どうこうではなく自分に勝った重みのある金だったと思います。
解き放れた今、将来のことを考えながら、彼には彼らしく愉しんで滑ってもらいたいと思ってます。
Posted by cherry at 2006年02月28日 23:08
>cherryさま
 はじめまして。コメントありがとうございます。
 私も、プルシェンコが金メダルを獲れた事を、本当に嬉しく思います。悲願の金メダルですから。今にして思えば……というより、エキシビションを観た後だから言えることですけども、力を抑えて確実に金を獲りに行くのも、立派な戦略ですよね。
 ただ、矢張りあのフリースケーティングを観た時には、ちょっと動揺してしまったんです。ソルトレークのカルメンの印象が強すぎて。(苦笑)無意識にあれを期待してしまっていたから。本当に勝手なファンなんです。
 ヤグディンと較べたいという事も勿論なくて。ふたりとも色が違いますし。敢えて較べようとするなら、ヤグディンは犬っぽくて、プルシェンコは猫っぽいという感じ?(笑)それと――強いて言えば、当時と現在とでは、一緒に戦う選手達も随分変わってしまっているから、そういう事に対して、私が感傷的になっているだけなんだと思います。彼にとっては、同じレベルで張り合う相手も、そこに届かないまでも努力で這い上がって来て、あわよくば自分の足首を掴もうとしているようなレベルの仲間もいなくなってしまっている状況ですから……。

 確かに、ソルトレークの映像を観ると、コンビネーションジャンプなんかは今回の方がずっと安定しているし、この4年で、彼は前回より確実に力を上げてきたと思います。才能に甘んじることなく、努力積み重ねているからこそ、更に精度が高い演技ができるようになっている。それは、ちゃんと彼を観てる人は理解できると思います。私みたいな素人でも判るんだから、きっと解る。彼はずっと、自身と闘って来た。

 cherryさんの仰った事に納得しました。この金は、彼が自分自身に勝った証なのですね。何か、それに気付けただけで嬉しい。今後、彼がもっと自由に、もっと愉しく滑る事ができる事を、心より望みます。
Posted by 志穂。 at 2006年03月01日 18:28
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