という訳で14日に無理矢理休みを作って、東京国立博物館で開催されていた『没後四〇〇年特別展 長谷川等伯』に行って参りました。
等伯の展覧会というのは記憶にある限りでも初めてだし、今後いつあるのかも判らず……。しかも会期も激が付くほどの短期。実は等伯の絵は教科書などでもじっくりと観た事が一度もなかったので、今回の展覧会では(ありきたりな感想ですが)その迫力に本当に驚きました。
初期の艶やかな仏画(法華経の既存のイメージを覆す華やかさ)から、荘厳な襖絵や天井画を経て、年老いて静かな水墨画へ到るまでの道筋を丁寧に追った展覧会で、回顧展としては本当に最高レベル。
個人的に等伯の好きなところは、その絵も然る事ながら、人としての強かさ。あの時代に於て、幾ら才能があったとは言え(確かにそれは本当に素晴らしいのだけど)、もう中年になろうという歳で、石川の片田舎から家族だけを引き連れて単身京都に乗り込み、自分の才能を知らしめる為に住職(主人)不在の寺院に乗り込んで襖に絵を描き込んでしまうという──その強気。
才能がなきゃ出来ない。更に言うなら、その上で才能を持っている事を自身も良く知っていなければ、これは無理で。(井の中の蛙だったりするととても恥ずかしい。)
それに、この人は狩野派の技巧を真似た絵画も残っているんだけれど(これも展覧会で観られます。)、それも「都の流行りを知る為に勉強した」と言えば聞こえは良いけど、要は「俺はこれも当然できる。その上で俺は俺の路を往くよ」という主張も透けて視えるというか……。とにかく狩野派へのライバル意識が凄いし、それを凌駕する勢いも実際にあって。
何たる自信家。でも、その自信が妄想でも何でもないのがまた怖いし、凄い。
一言で言うなら、人も画も「ダイナミック」という言葉が一番ぴったり。個人的にはこれほど「ダイナミック」という言葉の似合う筆致の画家も余りいないであろうと。水墨画だと余りこういう表現って使わないんじゃないかと思うだけど、この人はダイナミックなのだ。ホント。
そんな訳で、ダイナミックさを味わうなら《十六羅漢図》辺りがお得意の仏画でお奨めです。
また、強烈だったのは、10メートルにも及ぶ《仏涅槃図》。展示場所の所為もあったかもしれませんが、この絵が眼に入った瞬間、大音声の南無妙法蓮華経の大合唱を空耳。恐ろしいまでの迫力。
等伯の出世作(?)でもある円徳院の《山水図襖》もお奨めです。これはダイナミックと言うには少し違うのだけれど、会場を出た後もまぶたに残って幾度も思い出す絵です……。白い桐紋様を雪に見立てて、日本の懐かしい景色が描かれているのです。日本語で適切な言葉が見当たらないんだけど……ノスタルジックです。
代表作の《松林図》は大取りですが、ダイナミックなのに静かで……う〜ん、全体的に展示のバランスなんでしょうか。人の一生というか、終わり方も素敵でした。
因みに、等伯が上京して2年後には朝倉家も滅んでしまうので、この人本当に運が良い。その上、千利休と繋がってたりするところも、京都での身の処し方とか色々と良く解ってるというか……。野心家なのに、処世が巧い。とにかく、人物として魅力的なのです、等伯は。戦国時代に、戦に依らず足場を築いた人物という意味でも。
ところで公式サイトを捜すついでに『とうはくん 公式サイト』というのも見つけました。(笑)これが今流行りのゆるキャラというやつか……。