2006年03月27日

傷ついた白鳥は、クワドラプルの夢を視たか。

 凄い試合だったじゃないか。世界選手権男子シングル!
 今大会の(私にとっての)主役は、何と言ってもジョニー・ウィアーだ。
 まず、私が驚いたのは予選で彼が4回転ジャンプに挑戦してきたと知った時。まぁ予選の得点は、全体的なスコアに多大な影響はない……とは言え!
 そもそも彼は、今まで公式の試合で4回転ジャンプを披露した事が一度もなかったのである。それも、練習では成功してると豪語しながら。
 だから私はもう、この人はこれからも絶対に試合では4回転に挑戦しないだろうと思ってきた。実際、そんなリスクを犯さなくても、今の採点方式では比較的上位に入れる。五輪でこそ、4回転への挑戦が表彰台を分けた形になったけれど、それもプルシェンコがいなければ今後の試合で必須とは限らない。他にも、ジェフリー・バトルや織田信成なんかがこういうタイプの選手で、織田に関しては今回も勿論、そのプロに4回転は全く入っていない。だからまず、予選であれ何であれ、口だけだったジョニー・ウィアーが、試合で初めて4回転に挑戦してきた事を認めたいと思ったのだ。
 ところが彼はそれだけでなく、スコアの全体の5割を占めるフリースケーティングでも、4回転を入れてきた。フリースケーティングの方は地上波でも放映されたから知ってる人も多いと思うけれど、それはもう酷い顔色で出てきて、ジャンプも最初のコンビネーションくらいまでは良かったけれど、どちらかと言えば全体的に不安定。背中の痛みが酷いとも聞いていたけれど、ちょっと見でも本調子じゃないのが、画面のこちら側にも伝わって来る程の有様だった。
 そして前半の4回転ジャンプこそ両足着氷で決めたものの、プログラムの一番最後のジャンプで、彼は転倒する。
 暫くの間、起き上がらなかった。
 うつ伏せた姿勢のままのその姿に、私は既に順位を知っていたにも関わらず、もうウィアーは棄権だと思った。それくらい長い間立ち上がれなくて、でも、起ちあがった後の彼は転倒などなかったように――というより普段以上の力強さで、スピンを決め、ステップを滑り切った。
 最後まで、全力で滑り切った。
 先の五輪では銀メダルを狙うと言いながら(この発言はプルシェンコの金が前提にある)、フリーの途中でもう駄目だと決め込んだのか、終盤は見る影もない程にぐだぐだになるし、そもそも公式練習で4回転に挑戦しながら、本番では当たり前のように跳んで来ないしで、もう何だろうこの人! と思っていた。
 でも、この1ヶ月で彼は素晴らしくメンタル面を上げてきた。凄い。心からそう思ったし、私はやっぱり独りの部屋で、この映像を観ながら涙してしまった。
 ジョニー・ウィアーは表現力も卓越してるし、スケーティングの繋ぎも非常に滑らかで、素人目にも質が良いのが判る。オフシーズンにはしっかり背中を治して、今後も是非頑張って、4回転への挑戦を続けて行って欲しい。

 今回の世界選手権では他にも、一時はヤグディンの劣化コピーと化してしまったジュベールが、久々に完全復活したのにもゾクゾクした。滑走順如何では、ランビエールに勝るとも劣らない演技だと思ったんだけどな。そして、やっぱり4回転に挑戦してきた選手が多かった事は、今大会に於いて、何にも増して嬉しく思った。4回転ジャンプに対する熱狂は、今年になってから沸いたものなのだけど、そこに注目してたが故に、今大会は嬉しさも一入だった。

 本音を言うと、多分五輪でこういう試合が観たかったのだろう、私は。でも、それは高望みだったようにも思う。あれから1ヶ月経って、その間に色々な事を考えた。結論として、やっぱり五輪は特別なのだな、とだけ思った。殆どの選手が、4年に1度だけのその大会を、限りなく奇跡的なタイミングで迎えなければならない。あくまで勝負は時の運。
 王者に相応しい人間が、必ず王者になれるとも限らない。
 そして人は、老いれば守らなければならないものも増えて往くものだ。
 殊、今大会でプルシェンコが守らなければならなかったのは「国の威信」だったのだから、肉体の故障を経験して、新しい家族を得て、その演技が守りに廻らざるを得なかったのは仕方のないことで。
 私が初めて彼を観たのは、2001年の代々木GPF。その頃の彼は、攻めて攻めて攻めまくってた。丁度、ヤグディンと二強天下だった時代で、当時はどの主要な大会を取っても、プルシェンコが失敗してもヤグディンが優勝だし、ヤグディンが失敗してもプルシェンコが優勝で、彼らは祖国の事なんて全然心配しなくて良かった。そこにはふたりの熾烈な鍔迫り合いだけがあった。
 そんな時代を知っていたから、私はトリノ五輪を観て、哀しくて泣いたのだと思う。
 でも、その頃を知らなければ良かったとは思わない。
 彼らの活躍した時代、そんな面白い試合を、(当時はその背景など何も知らなかったとは言え)直接観る事も出来た。それは、私にとって何物にも変えがたい財産のひとつになると思う。
 だから、今回の世界選手権も、きっと次の世代に繋がっていく素晴らしい戦いだったと信じる。来期は4回転がクリアに決まるようになったジョニー・ウィアーが、ランビエールとジュベールの一騎討ちを阻んでくる事を期待したい。
 これからも、ずっと愉しくフィギュアスケートを観続けていく事ができたら、きっともっと、日常生活も愉しめる……と思う。
posted by HOSHINA Shiho at 00:24| Comment(2) | TrackBack(0) | フィギュアスケート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月24日

「自分の為に滑る」とは?

 フィギュアスケートの世界選手権の、真っ最中である。
 私が気になるのは、その動機が非常に不純ながら、ロシアのイリヤ・クリムキン。現在のロシアに於ける二番手の選手である。一番手は勿論、プルシェンコだ。
 世界選手権での順位は、それがそのまま翌年の同大会に於ける各国の出場選手枠の数に直結する。五輪が翌年に控えている場合には、五輪にも適用される。
 ロシアは、長野の世界選手権まではヤグディンとプルシェンコの2トップ体制で、その後ヤグディンがいなくなってからは、それこそプルシェンコが独りで、ロシアの出場選手の枠取りに多大な影響を与えてきた。彼らどちらかひとりが出場していれば、ロシアは当たり前のように3枠取れた。でも、今回はそうは行かない。多分、9年か10年振りなんじゃないだろうか。ヤグディンもプルシェンコもいない世界選手権というのは。
 クリムキンはロシアの選手だけど、彼の滑走については、私は多分そこまで真剣に観た事がない。だから、特徴とかも余り判らない。では何故クリムキンが気になるのかといえば、それは来年東京で行われる世界選手権の枠取りに関して、彼こそがロシアのキィパーソンだからだ。
 現在、ショートプログラム終了時点で、クリムキンは9位。総合で11位以下になったら、来年の世界選手権に於けるロシアの出場選手枠は1人。
 もし、そうなったら。
 ロシア陣営の選択肢は当然、以下のふたつ。
 ひとつは、後続を慮ってプルシェンコが現役引退を表明する。彼が引退しない限り、その1枠はプルシェンコの指定席となってしまう。この点から考えると、引退と言う選択も有り得なくはないだろう。プルシェンコは、自分がどの大会に於いても表彰台の真ん中を独占し続けている事に対して、(表向き)引け目を感じているような発言もあったし、五輪の金という花道を得た今、現役に固執する必要性は殆どなくなっているのだ。
 しかし、もうひとつの選択肢は、その真逆。ロシアという国の為に、その1枠をプルシェンコが奪い取り、雪辱を晴らしに東京へ来る。国の為か、国の命令かは解らないけれど、そういう外圧に突き動かされ、再び世界選手権の舞台に降り立つ――。
 勿論、クリムキンが10位以内に入って、来年の世界選手権の枠を2人まで確保できれば、今すぐここまで逼迫した状況にはならない。だから私は、クリムキンに注目する訳である。

 でも、自分で言っておきながら、国の為って一体何だ。全ての金メダルを手に入れて、プルシェンコはこれから、自分の為に自由に滑るんじゃなかったのだろうか。でも、じゃあ自由に滑るって何だ? これからも勝利の快感を得る為に、幾多の大会で勝ち続ける事が彼の自由なのだろうか。それとも、新採点なんか糞喰らえで、アイスショウなんかで自分の想い通りに滑って行く事が、彼の望みなのだろうか。
 どちらの道を選択しても彼の自由だし、彼には自由であって欲しいけど。でも、彼はロシアに棲む人だから、国にはまず逆らわないのだろうし……。
 とにかく! まずはクリムキンの順位が重要だ。

【追記】
 済みません、この記事訂正有ります。
 同じ国から2人以上の選手が出場している場合、上位2人の合計順位が28位以内であれば良いようです。ロシアは2人参加しているので、その合計順位が重要なのですね。因みに、今(昼休みですが……)公式サイトで確認した感じだと、ロシアはクリムキンが10位でグリャーツェフが17位だから、合計順位27位でロシアはギリギリ2枠確定……良かった。それと、この結果だともしかしてフランスが3枠獲れてるのかな? とにかく、詳細な感想などはまた後ほど。
 しかし、この順位は……スコアしか覧てないから判らないけれど、TESの値の感じでは、バトルとウィアは4回転入れて失敗したのか……? もしそうだったら、私は彼らの順位より、その勇気を称えたい。
 4回転を跳ばずしてチャンピオンのウィアより、それでも4回転に挑戦したウィアの方が、ずっと好きだから。
posted by HOSHINA Shiho at 03:32| Comment(0) | TrackBack(0) | フィギュアスケート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月22日

送別会の季節。(BlogPet)

こないだ、志穂が 私は当然、女子シングルのヤグディンはスルツカヤのものだと信じて疑ってなかったので、やっぱり女子の順位が出た時には、何て残酷なんだ、この状況…… って言ってたけど… *このエントリは、BlogPet(ブログペット)の「ねりな」が書きました。
posted by HOSHINA Shiho at 09:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月19日

ホセ・カレーラスの『アランフェス協奏曲』

 昨年末のメダリストオンアイスで本田武史が滑った、ヴォーカル入りのアランフェス協奏曲。
 ソルトレイク五輪の時に競技用で使ったのは、ジョン・ウィリアムスというアーティストのギター演奏の楽曲だと聞いていたのだけど、じゃあ、このヴォーカル入りのアランフェスって誰よ? と調べて知ったのが、ホセ・カレーラス。彼の『Passion』というアルバムに件のアランフェス協奏曲が収録されていると聞いて、アメリカのタワーレコードのサイトで試聴。間違いなさそうだったので、日本のタワーレコードで輸入版を注文――したんだけど、これが注文後40日間待たされた挙句、入荷せず。
 仕方ないので今度はAmazonの方で注文。
 実はタワーレコードで買えなかった時点でちょっと挫けかけたんだけど、Amazonのレビューで『アランフェス(その他楽曲中略)は、我が家ではどちらか先に逝ったほうを送る曲に決まりました』と書いてらした方がいらっしゃって、やっぱりどうしても欲しくなってしまい、殆ど勢いで注文してしまった。結局、こちらは2週間強で届きました。こんなあっさり手に入るなら最初からAmazonで買えばよかった。
 感想としては、アランフェス自体も勿論良かったのだけど、カレーラスのヴォーカルの威力が想像以上に絶大。他の曲も素晴らしく叙情的でした。アランフェス以外にも口遊む曲が増えそうです。
 でも本当は、本田武史がアマチュア時代に使った楽曲を全部集めたコンピレーションを造ってくれれば良いのに、と思ってたり。
posted by HOSHINA Shiho at 00:42| Comment(2) | TrackBack(1) | フィギュアスケート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月18日

結論は、ない。

♪碧い眼をしたお人形はぁ亜米利加生まれのセルロイド、と。

 先日、「天才の『何某(なにがし)』」。という記事のコメント欄で、あれだけ「芸術スポーツの人種差別は致し方ない」と話していたのにも関わらず、WBCの日米戦の誤審が物凄く不愉快で、(大人気ないとは思いつつも)今日の記事では「モンゴロイドとメスチーソを馬鹿にしやがってからに……!」と思い切りアングロサクソン……というより白人至上主義と言うべき思想を罵倒する記事を書いてしまおうかと思っていたものの、蓋を開けてみればメキシコの踏ん張りのお陰で日本は準決勝進出決定! と言う事であっさり毒気が抜けてしまった直情型人間の保科志穂です……。

 まぁ……とは言うものの。正直に言えば人種や民族、文化を根拠とした差別というのは、ある程度致し方ないとは思ってたりもするのですよね……。それに自国の選手を贔屓したいってのも解るし。そもそも人間なのだし、内心では何を思ってようと自由な訳で。例えば、少しでもフィギュアスケートという競技を愛して観て来た人々が、五輪でロシアのスルツカヤが万全の状態で闘えなかった事を惜しむ傍らで、我々の税金で喰ってる文部科学大臣様がスルツカヤの転倒を内心で悦ぼうと、もうホントにこれっぽっちも全く構わないのですよ。

 そういう下劣な感情を、表に出さなければね。

 私は――極端な例を言えば、キャンデロロが内心で日本人を馬鹿にしていたとしても良いと思ってるくらいで。ただ、私達が視えてしまうところでは、そんな想いをおくびにも出さないでいてくれたら、それだけで良いと――本当に、そうとさえ思っているのです。彼が、私達にとって素晴らしいスケーターであってくれれば、それで。それだけで、私はキャンデロロというスケーターが演じるダルタニアンの映像を、愉しく視続ける事ができるだろう、と。結局のところ人間は何を考えようと自由だし、そこは誰にも縛られるべきではないと考えます。
 ただ、そういう感情に対する自覚は必要だと思います。自覚した上で、自分の置かれている立場と、自分の発言が及ぼす影響を常に意識する必要がある。取り分け、自らの公人としての色合いが強くなれば強くなるほど、より慎重に自分の一挙手一投足を制御できなくてはならないと考えます。でも、それは文部科学大臣様のような極端な公人に限ったことではなく、我々自身が日常生活に於いて、仕事や人間関係を巧くこなしていくのに言葉を選ばなければならない事と、何ら変わりのない事だと思うのです。
 ――…………う〜ん。
 どちらにしても、この手の問題は物凄く根深いし難しい話なので、私には情けないほどに当り障りのない事しか書けません……。書いてる本人からして、私みたいな無知な阿呆が語れるレベルの話じゃないだけに腰が引けてるし。例え誰も閲ないとしても、世界万人から覽える所では言葉に出来ない、文字にしてはいけない、口承でのみ伝えていくしかない真実も沢山ある。それらを識れば識る程に、何処までを文字にして良いのか境界線が視えずに恐ろしくなる。私が扱えるようなものではないのだと、それだけを強く感じる――。

 まぁ、とにかく。今日はもういいや。とりあえず日本は次の試合を戦う資格を、得る事だけはできたのだしね……。
posted by HOSHINA Shiho at 10:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 日々是雑談 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月16日

時代のニーズに水を差す。

 本田武史が、今度の世界選手権の解説をすると思しきプレスリリースを覧てしまった……。

 ぶっちゃけ、引いた。

 う〜ん……せめてあと4年は長いにしても、最低でも2年は待って欲しかったかも。もう暫く五十嵐さんや樋口さんの解説でいいのになぁ。本田が活躍していた同時代の選手達が全員いなくなるまでとは言わないし、今回はジュニアの頃からずっと一緒にメダルと技術を争ってきたプルシェンコがいないのも、ちょっと救いではあるけれど。(因みに、高橋や織田、今年だと小塚も優勝しているジュニア世界選手権で本田の優勝記録が残っていないのは、件のロシア二強時代と完全に被っているからだと思う)
 しかし何が嫌って、ジェフリー・バトルの解説を本田がやるというのを聴きたくないんだよなぁ……。多分、本田に肩入れしていなかったとしても一瞬は引いたんじゃないだろうか、この采配。引退したヤグディンがプルシェンコの解説をやるのともまた訳が違うのだ、これは。そりゃ、本田とバトルに関しては、ヤグディンとプルシェンコまでの熾烈なライバル関係って訳でもないけれど、だからこそ私は余計に観たくないのだな、これを。
 もういい加減自分が苦しくなるのでそろそろフィギュア関連の話題辞めたいんだけど、でも、最近になってフィギュアを観るようになった人は、きっとこういう気持ち悪い感覚は理解できないと思うし、意識した事がない人もいるだろうから、批判を覚悟で書き留めておこうと思う。やっぱり考えちゃうんだ、こういうの。以前は(一応存在した)マイルールに則って、こういう内容を書くのってできるだけ避けてきたんだけど、もうここ最近ははっちゃけてるな、このブログ……。

 例えば、ソルトレイク五輪の金メダリストであるロシアのアレクセイ・ヤグディンは、ほぼ全てのタイトルに於いて金メダルを制覇しています。そして、既に引退済み。当時宿命のライバルだったトリノ五輪の金メダリスト、同じくロシアのエフゲニー・プルシェンコは、ヤグディン引退後、当然ながらそれらのタイトル全ての金メダルを悉く奪還してしまいます。
 金メダルには、それより上はありません。そこが至上の高みです。だから残るのは、どちらが先にそのタイトルを手に入れたか、という単純な歴史的事実だけです。
 しかし。
 本田とバトルというのは、実はふたりとも同じカナダを拠点として活動している選手です。そしてグランプリシリーズでは一緒に表彰台に並んだ事もあった。また、本田全盛期の頃には、常に本田の方がバトルを一歩リードしていた訳です。本田が優勝ならバトルが準優勝、というように。
 そんな本田の成績は、その最盛期がヤグディン・プルシェンコといった二強時代に完全に被った事もあり、ソルトレイク五輪は4位入賞、世界選手権の最高順位は銅メダル。
 そうして先のヤグディンが引退し、新採点時代に突入すると、今度はバトルが上位に上がって来るようになります。そしてそんな彼の成績は、トリノ五輪銅メダル、世界選手権は銀メダル。
 解って貰えるだろうか……この、こう言っては大変失礼だけど、時代のニーズか時の流れか、微妙にバトルの方が本田の上を行ってしまっているというこの事実。ほぼ一緒に同じ時代を闘って来た同士でありながら、ちょっとだけそのピークがズレたという、その事実が突きつけて来る、この世智辛い現実。
 どんなにか手を伸ばしても届かなかった、あとひとつ上の順位と、欲しかったメダル。天の采配故か、それを手に入れることを赦された、同時代に同拠点で活躍した同士の解説を、日本の報道は本田にさせようと言うのか……。
 本人は納得してるのだろうし、私が言える事なんか何もない。でも、何となく気持ち悪い感覚が残る。日本の男子シングルに於いて、国内では10年間孤高のエースを強いられ、過剰な期待に押し潰されて来た彼に、これ以上何をさせようと言うのだろう、我々は。
 彼に何を、言わせるのだろう。彼の云わんとする事は、私たちにどう届くのだろう。

 ――まぁ、何だって良いんだろうけどさ。それが時代の、ニーズなら。
posted by HOSHINA Shiho at 00:45| Comment(5) | TrackBack(0) | フィギュアスケート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月11日

「天才の『何某(なにがし)』」。

 私はフィギュアの女子シングルには非常に疎い。しかし昨日の報道を見てふと思いついた事があるので、それについて少しだけ書いてみようと思う。とは言うものの、どちらかと言うと男子シングルを好んで観ている人向けなので、それ以外の人には多分意味が解らないと思う。とりあえず最初にお断り。

 さて。
 ご存知の通り、今年のフィギュアスケートの世界ジュニア選手権では、金妍児が優勝しました。日本期待の浅田真央は2位。しかし私はこの順位、非常にしっくり来たのですよ。

 突然だけど、国民的アイドル木村拓哉が、どんなドラマに於いても「木村拓哉」以外の人物を演じられないのに似て、男子シングルに於いては、天才と名高いヤグディンもプルシェンコも、その個性があまりにも突出していて、彼ら以外の人物を演じる事はしていないように思う。というよりも実際のところ、あそこまで技術を極めていれば、そういう一種の「型」に縛られる必要はないのだが。まぁ、要はプルシェンコが滑る『トスカ』は、『トスカ』ではなく「プルシェンコの『トスカ』」なのである、という話なのだ。
 天才と言うのは「そういうもの」で、画家のピカソなんかもそうだけど、その天才的なデッサン力の先に、非常に有名な「ピカソの『ゲルニカ』」という、子供の落書きと見紛うような絵画があるのだ。ゴッホやシャガールにしてもそれは同じ事で、もう技術なんてものを突き抜けたところに、彼らの個性は存在しているのである。だから、ここで言う「プルシェンコの『トスカ』」という表現は、そういう意味だと思って欲しい。因みに、木村拓哉が天才だとは一言も言ってないし(「できない」事と、「できるけど、敢えてそうする意味がない」のは全然違う)、フィギュアスケートと絵画を一緒くたにするのは物凄い勢いで無理があるので、この辺は単純にものの例え。
 そんな訳で、彼らはその天才的な技術と強烈な個性が故に、自らにしかなり得ない。それが是か非かは別問題として、その点から言うと、本田武史なんぞは何にでも成り得たように思う。元々極めて個性の弱い、流されて生きることを是とする日本人の質故か。ヤグディンやプルシェンコ等の突き抜けてしまった選手とはまた違う彩を放つ彼は、ある時は踊り狂うブロードウェイのダンサーになり、またある時は戦場から戻った孤独な兵士になった。
 そして、本田の演じる『アランフェス』は、あくまで『アランフェス』なのである。「本田と言えば『アランフェス』」「『アランフェス』と言えば本田武史」という煽り文句を何かの本で読んだけれど、『アランフェス』は本田の代表作でありながら、本田が演じるのは「本田武史の『アランフェス』」ではなく、あくまでその音楽に肉薄した『アランフェス』なのだ。これと同じ事が『仮面の男』にも言えて、『仮面の男』だとヤグディンと本田のプロが共に有名だけど、本田が演じるのは『仮面の男』であり、ヤグディンが演じるのは「ヤグディンの『仮面の男』」なのである。

 更に言うなら、ヤグディンという天才が演じるからこそ、「ヤグディンの『仮面の男』」が成立するのだ。

 結局のところ、他の人間がヤグディンを真似て滑ってみても、「音楽と、その作品の持つバックボーンを表現できていない」という評価しか得られないだろう。そして、逆に本田が演じる『仮面の男』は、そう言った意味では誰よりも『仮面の男』という音楽の持ち味を忠実に表現できているように思うのだ。彼は自分自身に音楽を引き寄せて演じるというよりは、自分自身を音楽に昇華させて演じようとしていたように視える。
 故にこれを踏まえて「表現力」という点に立ち戻った時、一番それが顕著に秀でていると感じるのは本田武史、という結論になってしまうのだな。まぁそこまで考えたのは昨日なんだけど。(笑)いや、最近私ってば本田一押しだな。もう遅いけど……。

 さて、ここで話は浅田真央に戻る。
 浅田真央はまだ、こういうレベルには辿り着いていないのではないだろうか。まだカリスマと言うほどの突出した個性も感じないし、かと言ってその作品を深く表現する事もできていないような。誰かに例えるのは反則だけど、言うなればティモシー・ゲーブル。ソルトレーク五輪の銅メダリストであり、クワド・キングと呼ばれた男。しかし、ヤグディンやプルシェンコと言った天才達とは果てしなく距離があり、かと言って本田のように深く美しくその世界を表現する術も持ち合わせなかった。彼は、私のお仲間の佐久夜嬢の言葉を借りるなら、「ジャンパーからスケーターにはなれなかった」のである。恐ろしく安定した4回転ジャンプを跳ぶ事が出来たが、表現力に乏しく、その音楽の持つ深みを表現できなかった……。採点基準の変化に適応できなかった、旧採点末期のアスリートだ。
 とは言え、浅田真央はまだまだ若く先も長い。これから十二分に伸び代が期待できる選手だと思うので、この辺りに早く気付いて、ジャンパーではなくスケーターとして成長していってくれると、これからが非常に楽しみな選手になると思う。

 私は(男子の)4回転ジャンプを熱く語るきらいがあるけれど、フィギュアスケートってジャンプだけが全てじゃない。殊に女子に求められているものは、力強いジャンプだけではないはずだ。日本は伊藤みどりからこっち、どうしてもジャンプ偏重な傾向があるように思う。それは我々が非アングロサクソンが故かも知れないけれど、新採点を生きる選手達にはでき得る限り、その呪いに縛られないであって欲しいと願う。それこそが、この新旧採点の過渡期を耐え抜いて金メダルを勝ち取った荒川静香という選手から続く、新しいフィギュアの歴史になると思うから。
posted by HOSHINA Shiho at 00:55| Comment(4) | TrackBack(1) | フィギュアスケート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月10日

天才受け入れのキャパシティ。

 実はここ数ヶ月、本を読む気がなかなか起こらず困っていた。以前、通勤に片道1時間40分かけていた頃はそこそこの読書量があったのだけど……。転職して引っ越す事で通勤時間が短くなり、それに反比例するように仕事が爆発的に忙しくなってしまってから、読書量が目に見えて落ちてしまった。そして、更に輪をかけるように、ここ数ヶ月は本を読むことに対する欲求が、もうほぼ皆無状態にまで至っていたのだ。(それこそ冬コミ落ちて助かった、と思ってしまうほどに。)
 勿論、ビジネス書はある程度読んでいると思う。実用書も比較的。雑誌もそれなりに。でも、それは仕事に役立てようとする意思が介在するものであり、そういう意味では、私にとって純粋に娯しむ為の読書とは言えない。しかし、仕事に追われて疲弊しきった脳には、紙に印字された文章は単なる文字列としか認識できなくなっていて、気がついた時には、あれだけ大好きだった小説の文章が、全く理解できなくなってしまっていたのだ。
 そうして去年の秋からこの冬にかけて、私は過労やストレスといったものが原因とされるような病気(?)をして、片目が視えなくなったり、耳が聴こえなくなったり、年明けにはものが食べられない上に起きられなくなるような事態にまで直面する事になったのだけど……。まぁ、それはもう殆ど良くなってるので、さて置いて。
 そんな感じで肉体的な障害を抱えていた時期に被るように、私は世紀の天才と謳われた人々を幾人か眼前にする機会に恵まれた。それは例えば、天才ダンサーのシルヴィ・ギエムであったり、ソルトレイクの白鳥と謳われたアレクセイ・ヤグディンであったり、フィギュアの天才エフゲニー・プルシェンコであったりするのだけれど……。そして私にとって、平井堅もこの中に入ってたりするのだけれど。
 とにかく、自分の認識より遥かに高みにある畏ろしいまでの美しい技術を持ち、その技術を余すことなく体現する様をこれだけ幾度も眼にすると、流石に人間、疲弊しきった感覚であっても、その凄まじさに勘所のようなものが戻ってくるものらしい。しかも、プルシェンコの五輪のスケーティングを観て、ショートプログラムで歓び、フリースケーティングでは落ち込んで哭いて、エキシビションでは感動して泣く……と苦痛に感じる程に感情を起伏させられ、それを下手なりにこうして文章に書くという事までやってしまったある日。突然私は思ったものである。
「本が読みたい。綺麗な文章の小説が読みたい」
と。まぁ、人間インプット量が一定に達するとアウトプットせずにはいられなくなるのかも知れない。そうしてある程度アウトプットすると、初めてインプットする為の容量が空くのかも知れない。もしかしたら、そんな事は全く関係なく、それこそ偶々なのかもしれないけれど。
 でもまぁ、安心した。ホントに。

 それにしても、ああいう天才――というか、神に愛された仔等にとって、この世界はどのように視えるのだろう。風の音は聴こえるだろうか。温もりは感じるのだろうか。
posted by HOSHINA Shiho at 02:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 日々是雑談 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月07日

フィギュアスケート - Theater on Ice 2006

 『シアターオンアイス 2006』の最終公演に行ってきました。
 有明コロシアムの特設リンクというのは初めて行ったのですが……最初の感想は一言、「リンク狭っ!」と、まず吃驚。
「これじゃ、ジャンプの前の助走だけで終わっちゃうんじゃないの?」なんて冗談のつもりで一緒に行った同僚嬢と話していたら、案の定。プルシェンコがジャンプに失敗して、珍しく両足着地してました。だって無理だよ、あの狭さ……。リンクを広く使う選手には、あの幅はかなり厳しいと思う。本当にショー用に急遽造ったアイスリンクなのですね。
 さて、私の行った5日の公演は、プーチン大統領のお呼びとかでロシア勢が第1部で撤退してしまったのですが、それでもとにかく、プルシェンコもトトミアニナ&マリニンも観る事ができて、ホント感激でした。特に、プルシェンコに関しては(現役続行を決めかねているとは言え、とりあえずは)まだ、今後もアマとしての姿を観る事ができると思うのですが、トトミアニナ&マリニンのペアは五輪を以って引退との報道もあり、現役の彼らの生の演技は、恐らくはこれが観納め……。彼らは派手さのないペアだとは思うのですが、逆に言うとこんな安定しているペアって、やっぱり珍しい。リフトとか観てても、失敗する様が想像できない。人間というより彫像のようだ……と思うことさえあって。あの狭いリンクでさえ、「完成されてる」と、そんな風に思う演技でした。
 そんな感じで、第1部でいきなりロシア勢を観てしまった訳ですが、第2部ではお待ちかねの本田も登場。また太ったね……と思いつつ、若干練習不足かな、とも思いつつ。それでも、よく帰ってきてくれたなぁ、と……。太ってしまってもあれだけ跳べるし、滑れるのだから、足をしっかり治して、また調子を戻してきて欲しいと思います。
 演技終了後には、本田のたどたどしい挨拶と、ベトレンコからの花束贈呈もあって。彼のプロスケータとしての門出を共に祝う場に立ち会うことが出来た事も、私にとっては嬉しかった。本当は、本田だってあれだけ活躍したのですから、引退セレモニーくらいやってくれれば良いのにな、と思ってたのですよ。だから、今回のイベントはある種、渡りに船? どちらにしても、日本の男子フィギュアを長く支えてきた彼が、沢山の人に囲まれて最初のイベントを迎えることが出来て、本当に良かった。
 そうそう。5日の公演では、フィナーレでも、第2部を待たずに帰ってしまったプルシェンコに替わり、本田が安藤の相手役を演ってくれました。本田も雰囲気はそれなりなのですが、如何せん身長が足りなかったですね。安藤の方が長身?(苦笑)でも、レアなものを観られたな、と思ってちょっと感謝。そりゃあ、プルシェンコが余り観られなかったのは残念だったけれど、でも、こんなトラブル自体、五輪でのプルシェンコの活躍があってこそ。当日はショックで寝込みましたが(笑)、これもまた、ありがたく受け止めたいと思います。
 そして最後に特筆すべきは、今イベントのパンフレットです! 本の素材も豪華なのですが、何より嬉しいのは本田武史のインタビュー! もう、これだけでこのパンフレットは価値があるよ……! しかも、ショーナンバーの特集ページにも本田がちゃんと載っていて! フジテレビはいつもスポーツ中継が絶望的に駄目だけど、このパンフレットは素晴らしい。ちゃんと本田を評価してくれていて、とても嬉しい。

 これで、今シーズンのフィギュア観戦は最後かな。暫くは、フィギュアに関する話題も途切れがちになると思います。関西方面に向かって、まだまだ幾つかのイベントが続くようですので、観戦に行く皆さんは、是非愉しんでくださいね!

 しかし、去年の秋からこっち、非常に短期間の間に、シルヴィ・ギエム、エフゲニー・プルシェンコ、既に引退したとは言えアレクセイ・ヤグディンまで……天才と同時代に生き、彼らが動き、演じる様を目の当たりする事が出来ているなんて――全く以って、何て幸せなのでしょう、私。大丈夫かなぁ。(何が?)

フィギュアスケート覚え書き。

 私は、フィギュアスケートの女子シングルに関しては割と淡白なので、スルツカヤについては去年のGPF観戦記と、この時だけしか触れていません。
 が。

 文科相:スルツカヤ選手におわび 「転倒喜んだ」発言で(毎日新聞)
 荒川静香選手の文部科学省訪問時における発言について(文部科学省)

 その公人としての思慮に欠けた薄ら呆けた脳味噌で、これからも頑張って文部大臣を務めてください。人間ですから何を考えようと自由ですが、あんたの給料は私達の税金です。
 同じ日本人として、恥ずかしくて顔から火が出そう。
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2006年03月05日

耳を澄ませて。

 私は前に、フィギュアスケートのジャンプの回転数について、「会場観戦なら4回転である事が判別し易い」という旨の内容を書いた事があると思う。それは何故か。
 理由は、音。
 ジャンプを跳んだ後の、着氷の音だ。着氷に失敗して転んだとしても、成功したとしても。その時の着氷音が、明らかに違う。目の醒めるようなその轟きに、ジャンプにかけた選手達のパワーを認識する。
 確かに、あんな事をずっと続けていたら、故障しない方が不思議だろう。うん、そう思う……。5年前、初めてフィギュアスケートを生で観た時に、私が一番驚いたのは、そのジャンプに失敗した時の着氷音だったのだから。

 今日は『Theater on Ice 2006』を観に行って来ます。Yahoo!のニューストピックスに、4日の公演の紹介がされていて吃驚しました。ホント、こんな良い布陣になるなら、今日だけじゃなくて、4日のチケットも購入しておいたのに。本田が帰国してくれるのかもギリギリまで微妙だったし、プルシェンコも去年来日したばかりだから無理だろうな……と思って、チケットを買い惜しみしてしまった。
 まぁどちらにしても、昨日は久々に友人とランチも一緒したし、その後出勤もしているので、行くったって行けなかったんだけどさ。(笑)

 プロになった本田武史を、応援しに行きます。
posted by HOSHINA Shiho at 00:15| Comment(2) | TrackBack(0) | フィギュアスケート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月03日

日常生活をSimpleに。

 五輪も終わったし、そろそろ思考を通常モードに戻したいんだけど……これがなかなか難しい。こう、フィギュアスケート男子シングルに対する想いの丈を、ワーッと語ってしまえばすっきりするのかもしれないけど、未だ佐久夜嬢との呑み会も実現できず、メールで男子の4回転を語るだけの日々が続いてたりとかするし。とは言え先月も相変わらずの残業続きで、五輪の男子シングルの試合の日以外、21時より前に会社を出られた例がないんだよなぁ。逆に言えば、五輪を観る為に逃げ帰るという暴挙は繰り返した訳だけど。
 まぁどちらにしても、一度この熱い想い(笑)を語らないと、精神的には納まらないかも知れないな。どっかでプルシェンコを語るオフとかやってないかなぁ、3月5日の夜辺りで……。幾ら五輪で盛り上がっているとは言え、これだけの内容を会社の人に語るには限度もある。それでも一応は、五輪のお陰で、随分色んな人が話を聞いてくれはしたんだけど。

 そうそう、最近改めてフィギュアスケートに関する当時の本や映像をチェックし直したんだけど、記憶違いをしているところが多々あって(苦笑)先月なんか、あちこちで細かい嘘を書いてる場所が見つかりました。もし「ああ、この人間違ってる……」と思った方、こっそり胸の中に閉まっておくか、メールで指摘してやってください。(笑)
 例えば、6.0出したのは『ウィンター』じゃなくて『仮面の男』の方では? とか。う〜ん、妄想って怖いなぁ。まぁ普段、好き好きと言いながらも、いかにフィギュアスケートに関する話題から遠ざかってるかって証とも言える。
posted by HOSHINA Shiho at 01:48| Comment(1) | TrackBack(0) | フィギュアスケート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月01日

カテゴリ新設。(BlogPet)

きょうは、終了したいです。 *このエントリは、BlogPet(ブログペット)の「ねりな」が書きました。
posted by HOSHINA Shiho at 08:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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